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福井地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決 1996年2月14日

原告

松村與平

右訴訟代理人弁護士

北尾勉也

橋本明夫

被告

(勝山市長) 今井三右衛門(Y2)

(前勝山市長) 池田勤也(Y1)

右二名訴訟代理人弁護士

金井和夫

金井亨

主文

一  原告の被告池田勤也に対する請求を却下する。

二  原告の被告今井三右衛門に対する請求中、勝山市が負担した訴外中出清の平成二年一一月一日から平成三年四月一七日までの給与相当分一五九万二七五二円の支払を求める部分を却下する。

三  被告今井三右衛門は、勝山市に対し、金二八三万六七九二円及びこれに対する平成四年七月二六日から支払済みまで年五分の金員を支払え。

四  原告の被告今井三右衛門に対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、被告池田勤也に生じた費用は原告の負担とし、原告に生じた費用と被告今井三右衛門に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、その余を被告今井三右衛門の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告池田勤也は、勝山市に対し、金四七万五六二一円及びこれに対する平成四年七月二六日から支払済みまで年五分の金員を支払え。

二  被告今井三右衛門は、勝山市に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成四年七月二六日から支払済みまで年五分の金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は勝山市の住民である原告が、被告らがそれぞれ勝山市長在職中に、同市職員を民間会社へ職務専念義務を免除した上派遣し、給与の支払をしたことが違法であるとして、右派遣職員らに支払われた給与に相当する額を勝山市の損害として、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき勝山市に代位して、その支払を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  被告らの地位

被告池田勤也(以下「被告池田」という。)は昭和五一年一二月二六日から昭和六三年一二月二五日まで、被告今井三右衛門(以下「被告今井」という。)は昭和六三年一二月二六日以降、いずれも勝山市長の職にあったものである。

2  職務専念義務に関する法令の定め

勝山市では、地方公務員法三五条の規定に基づいて、職務に専念する義務の特例に関し、勝山市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(以下「本件免除条例」という。)を設けており、その二条で、職務専念義務が免除される場合について以下のように定めている。

「職員は、次の各号の一に該当する場合においてはあらかじめ任命権者(略)またはその委任を受けた者の承認を得て、その職務に専念する義務を免除されることができる。

(1) 研修を受ける場合

(2) 厚生に関する計画の実施に参加する場合

(3) 前各号に規定する場合を除くほか、任命権者が定める場合」

本件免除条例第二条三号に規定する「任命権者が定める場合」につき、勝山市職員の職務に専念する義務の特例を定める規則(以下「本件免除規則」という。)が定められているところ、その第二条一号には、「市行政と密接な関係を有し、市が指導育成することを必要とする団体の事務に従事する場合」と定められている。

3  訴外勝山高原開発株式会社(本件派遣当時の商号は法恩寺山リゾート開発株式会社。以下「三セク会社」という。)への勝山市の職員の派遣と給与の支給

(一) 三セク会社の概要

三セク会社は、昭和六三年九月一七日に、資本金四億八〇〇〇万円で設立された会社であるが、出資構成は福井県五パーセント、勝山市一〇パーセント、東急不動産五一パーセント等となっているいわゆる第三セクター方式の会社である。

設立当時の事業目的は、<1>宅地、スキー場、ゴルフ場の造成業、<2>不動産の売買、賃貸、斡旋、仲介並びに管理業、<3>土砂の採取、販売業、<4>温泉、鉱泉の掘削業、<5>鉱物の試掘、採掘業、<6>土木建築工事の設計、監理業、<7>観光農園、果樹園の経営並びに造林業、<8>駐車場の経営並びに管理業、<9>ヘリポートの建設、管理、運営、<10>旅行業法に定める一般旅行業、<11>損害保険代理店業、<12>前各号に付帯関連する一切の事業であり、勝山市の法恩寺山にスキー場(通称スキージャム)やゴルフ場等の施設を作り、営業をしている。(〔証拠略〕)

(二) 勝山市職員の派遣

勝山市職員である訴外境井義樹は昭和六三年一一月一五日付けで、同鳥山健一は平成二年四月一日付けで、それぞれ当時の勝山市長から、本件免除条例二条三号並びに本件免除規則二条一号の各規定に基づき、職務専念義務を免除された上、三セク会社への派遣を命じられ、いずれも平成六年三月三一日まで同社に勤務した。

(三) 給与の支払い

被告らは勝山市長として、勝山市職員の給与の支給に関する条例(以下「本件給与条例」という。)二三条に規定する任命権者の承認により、被告池田においては、昭和六三年一一月一五日より同年一二月二五日までの間の給与として境井に対して総額四七万五六二一円を、被告今井においては、昭和六三年一二月二六日から平成四年四月一五日までの間の給与として、境井に対して総額一五三三万六七〇七円を、鳥山に対して総額五五七万三五一二円を、それぞれ支給した。

右給与には、給料の他に扶養手当(児童手当を含む)、住居手当、期末手当、勤勉手当、寒冷地手当、通勤手当等の諸手当が含れている。

4  訴外相互不動産株式会社(以下「相互不動産」という。)への勝山市の職員の派遣と給与の支給

(一) 相互不動産の概要

相互不動産は、昭和五四年六月二五日に資本金四億五〇〇〇万円で設立された会社であり、事業目的は、<1>不動産の賃貸借、管理及び売買、<2>観光事業並びにこれに伴う道路旅客運送業、<3>遊園地及び食堂、喫茶店並びに料理旅館業等の経営、<4>スイミングクラブ、スイミングスクールの経営及び経営指導の請負、<5>スポーツクラブ会員の募集企画、募集並びに募集代行業務、<6>ゴルフ用品の販売、ゴルフ練習場並びにゴルフスクールの経営、<7>ゴルフ場、スキー場、スケート場、テニス場及びアスレチッククラブ等各種スポーツ施設の経営、<8>前各号に付帯関連する一切の事業であり、勝山市内においていわゆる越前大仏、勝山城の観光施設を作り、ホテルを経営している。(〔証拠略〕)

(二) 勝山市職員の派遣

勝山市職員である訴外中出清は、平成二年一一月一日付けで、勝山市長から、本件免除条例二条一号に基づき、職務専念義務を免除された上、相互不動産への派遣を命じられた。当初、派遣期間は平成三年三月三一日までとされていたが、平成四年三月三一日までと変更された。(〔証拠略〕)

(三) 給与の支払い

被告今井は、勝山市長として、中出に対し右派遣期間中の給与として総額一一四〇万八二四四円を本件給与条例二三条に規定する任命権者の承認により支給した。なお、このうち総額六九七万八七〇〇円については、各年度末ごとに相互不動産より勝山市一般会計勘定へ受け入れをしているので、中出に対する給与の勝山市の実質の負担額は四四二万九五四四円となる。

なお、中出に対する給与のうち、本件監査請求の日の一年前である平成三年四月一八日以降に支払われた給与の総額は七五五万八五五四円であり、そのうち相互不動産が負担したのは四七二万一七六二円で、勝山市の実質の負担額は二八三万六七九二円である。(〔証拠略〕)

5  住民監査請求等

原告は、平成四年四月一七日(監査請求書の日付は同月一六日で右書面の受け付けは同月一七日となっている。)、勝山市監査委員に対し、本件各給与支給の違法性等を主張して監査請求をしたが、同年六月一二日付で請求理由は認められないので措置勧告は行わないとする監査結果が出された。〔証拠略〕

そこで、原告は同年七月九日、本訴を提起したが、被告今井に対する五〇〇万円の請求金の内訳は、境井に対する給与として支出した金額の内金二八万五二二八円、鳥山に対する給与として支出した金額の内金二八万五二二八円、中出に対する給与として支出した金額四四二万九五四四円である。

なお、原告は、境井及び鳥山に関する前記請求分につき、給与として支出された総額中の内金であると主張しているが(後記のとおり本件訴訟が適法となるためには支出された時期が問題となるから、文字どおり前記主張を受取れば不適法な請求を含むものということになるが、原告の真意はあえて不適法な請求を維持する意思ではないと認められるから、最も遅い支出分から順に請求額に充る分までを請求する意思であると解釈する。

二  争点

1  訴えの適法性(本案前の主張)

(被告の主張)

(一) 監査請求前置違反

本件は被告らに対し、勝山市に代位して違法な公金支出による損害賠償を求めるものであるが、原告は監査請求においては勝山市が支給した給与を派遣先から勝山市に不当利得として返還させるよう求めていたものであるから、本訴は監査請求を前置していない不適法な訴えであり、却下されるべきである。

(二) 期間途過

地方自治法二四二条二項によれば、原告が監査請求をなし得るのは、平成三年四月一八日から平成四年四月一七日までに支給された給与についてのみである。被告池田が市長として派遣職員に給与を支給したのは昭和六三年一二月二五日までであるから、少なくとも同被告に対する請求は却下を免れない。

(原告の主張)

(一) 監査請求前置違反について

原告の監査請求での主張の趣旨は、要するに本件派遣職員への市費での給与の支出は違法・不当な行為であるから、勝山市の公財政の損害防止ないし損害回復の観点からの是正措置を求めるということにある。その是正措置として、監査請求での明示的な要求としては、各派遣会社に対する不当利得返還請求を掲げているが、これに限定する趣旨ではなかったのはいうまでもない。本訴は本件派遣行為の違法・本件給与支出の違法を前提として、勝山市の公財政の損害防止・損害回復の観点からその是正回復措置を求めるものであるので、違法性・不当性が問われている対象は監査請求と同一であり、本件監査請求と本件住民訴訟の対象は実質的に同一であって、監査請求前置の要請を満たしている。

(二) 期間途過について

各職員の派遣行為とそれに対する給与の支給とは密接不可分・一体の関係にあるので、地方自治法二四二条二項の「当該行為の終わった日」とは、毎月の給与の個々の支払いが行われた個々の支給日を指すものではなく、当初の派遣命令に基づく派遣が終了したとき、つまり派遣中の最終の給与の支給のときと解すべきものである。

昭和六三年一一月一五日に被告池田によって始められた三セク会社への職員派遣行為と給与支出行為は、被告今井に引き継がれ、平成六年三月三一日まで継続した一体たる一連の違法行為と評価されるし、相互不動産への職員派遣とその給与支出行為については、平成二年一一月一日から平成四年三月三一日まで継続した一体たる一連の違法行為と評価されるので、本件監査請求はいずれも請求期間内の適法な請求である。

2  公金支出の違法性(本案の主張)

(原告の主張)

(一) 本件各派遣の違法性

(1) 市職員の派遣と職務専念義務の関係

地方公務員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない(地方公務員法三〇条)。このことは公務が国民・住民の信託に基づいて行われ、かつその費用は全て納税者の租税負担によって賄われていることの当然の帰結である。このような地方公務員の職務の根本基準を受けて、同法はさらにその三五条により、地方公務員の職務専念義務を課している。このような職務専念義務の性質に鑑みれば、その例外を認めることには極力慎重でなければならない。

同法三五条は「法律又は条例に特別の定がある場合」に職務専念義務の免除を認めており、これを受けて勝山市でも本件免除条例及び本件免除規則が設けられているが、そもそも、現行地方公務員法の制度的枠組の中では、職務専念義務を免除して長期的に特定企業に職員を派遣するような事態は想定されてはいないのである。従って、この形態の派遣が適法なものとなるためには単に形式的に条例なり規則に基づく職務専念義務の免除措置があれば足りるのではなく、憲法や現行公務員法制度上の職務専念義務の重要性を前提としてもなお免除することが許容される場合であるかどうかという観点から、それに相応しい派遣先といえるかどうかといった観点をも含め(派遣される職員が従事する業務が実質的に「公務」と同一視し得るものであることが必要であるというべきである。)、条例の定める要件に該当するかどうかを条例の文言を厳格に解釈して慎重に検討した上で、免除の可否を決しなければならない。ちなみに、国家公務員を他に派遣する場合には、全て休職ないし退職によって派遣されているのであり、地方公務員の場合の例外設定がいかに例外的なものであるかにも留意すべきものである。

(2) 三セク会社への派遣の違法性

被告らは、職務専念義務を免除した上、市職員を三セク会社へ派遣し、もっぱら同社の業務に従事させたが、それは本件免除規則二条一号の規定する「場合」には該当しないので、右派遣行為は違法である。

すなわち、三セク会社の業務は、本来的には観光による収益を図る全く私企業的なものであって、何ら公益性を有せず、「公務」とは全く異質なものであり、形式的に本件免除規則二条一号に該当しない。

また、本件リゾート開発に公益性があるのか疑問であるが、仮にそれが認められ、勝山市が何らかの関与をすること自体はその目的において正当だとして、一定の関与が市長の裁量の枠内のものとして是認されうるとしても、外部から市や県が働きかけたり、情報収集の体制を整える等の方法による指導監督で十分であり、職員を派遣すべき必要性はなく、本件派遣という方法は裁量権の逸脱、濫用があるというべきである。

右会社への実質的な指導監督のため、職員派遣が必要かつ妥当であったという被告らの主張は、市が開発の終了段階で派遣を打ち切ってしまうのも、不自然であることや、市と右会社との派遣に関する協定書にも市の指導監督権限の具体的な取り決めが全くなく、派遣職員にもその説明がなかったことからして、疑問がある。むしろ、企業内部に市の職員がいることのメリットは、行政的な許認可手続面での便宜の他、右会社が公的な存在であるかのように映り、右会社のリゾート開発への各種の障害を取り除く等(地元の反対住民の説得活動等を含む)の、右会社の「企業」としての活動そのものにとっての利益であったものである。従って、本件派遣は形式的にも実質的にも職務専念義務の免除の正当化理由にはなり得ないものである。

(3) 相互不動産への職員の派遣の違法性

被告今井は職務専念義務を免除した上、市職員を相互不動産へ派遣し、もっぱら同社の業務に従事させたが、それは本件免除条例二条一号にいう「研修を受ける場合」には該当しないので、右派遣行為は違法である。

すなわち、右会社は歴史も浅く、観光事業については昭和六二年からスタートしたに過ぎず、実体は越前大仏を建立するために土地を買い上げるべく作った会社であって、行政が必要とするような情報や資質は何ら備わっておらず、研修目的での派遣先にすることは不合理である。

被告今井は観光開発事業の推進にあたっての技術的研修ということで情報の収集や客の集客接遇といったことの研修にあたったと主張するが、右会社の経営する越前大仏については、昭和六二年春の落慶当初から拝観料や駐車料金について問題を生じ、それをめぐって市と対立するような状況にまで至っているし、かかる経緯から市民は余り好意的に受け入れてはおらず、事業としても、入場者数が派遣決定当時減少状態にあり、必ずしもいい見通しが立たない企業であったといえるから、被告今井主張の研修の派遣先としてはおよそ考えられないところであったはずである。

さらに、派遣についての協定書には派遣目的として右会社の業務そのものにも従事させる目的が明記されていることから研修という目的を超えて完全に本来の職務とは別の仕事をしていた疑いがある。

また、勝山市は亡多田清氏の大仏建立、ホテル建設、勝山城建築を目の当たりにするとともに、同氏が社長をしていた右会社から多大の税収入を得ていることから、派遣先決定のプロセスに公正さが失われていることが推察される。

以上のような派遣先の不適正やその選定経緯の不公正、研修以外の活動がなされていた疑いがあること等から、職務専念義務の免除の正当化理由としては容認しがたい。

(二) 本件各給与支給の違法性

三セク会社及び相互不動産へ派遣された市職員への給与の支給は地方自治法二〇四条、二〇四条の二、地方公務員法二四条、二五条に反する違法な公金支出である。

地方自治法二〇四条一項は、常勤の職員に対して給料を支払う旨規定し、また地方公務員法二四条一項は、職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならないと規定しているところ、本件派遣職員は、派遣期間中も市職員としての身分を有し、市と一応の連絡を取り得る関係にはあったが、派遣先の従業員と同様にその業務を行っており、これを常勤の職員ということはできず、また本件各派遣行為が違法である以上、その間市の職務に従事しなかったことを正当化する根拠も存在しないから、右各規定の存在意義に照らし、また一般的なノーワーク・ノーペイの原則により、本件派遣職員に給与を支給することは合法的にはなし得ないといわなければならない。

また、被告らは勝山市長として本件派遣先との間で給与の支払方法についての条項を含む協定を締結した上、その派遣目的を達成するために本件派遣職員に対し職務専念義務を免除して派遣先へ派遣を命じたものであり、本件派遣職員に対する給与の支給と、職務専念義務を免除する方法による本件派遣先への派遣命令とは、密接不可分の関係にあるということができるから後者が違法である以上、前者もまた違法であるといわなければならない。

(被告の主張)

(一) 本件各派遣の適法性と給与支給の適法性

勝山市長が三セク会社に職員を派遣したのは、本件免除規則二条一号に基づき、市行政と密接な関係を有し、市が指導育成することを必要とする団体の事務に従事する場合として、相互不動産については免除条例二条一号に基づき職員が研修を受ける場合としてそれぞれ派遣職員の職務専念義務を免除したものである。

そして、職務専念義務を免除するに当り、三セク会社を市行政と密接な関係を有するものとして指導育成する必要があるかどうかの市長の判断には、当然ながら裁量の余地がある。又、相互不動産についても、そもそも市職員に研修を受けさせる必要があるかどうか、派遣職員・派遣先・研修内容の決定などについては全て勝山市長の裁量に委ねられている。従って、いずれの場合もその裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合でない限り職務専念義務を免除することが違法とされることはない。

そして、任命権者即ち勝山市長が本件免除条例及び規則に基づいて市職員の職務専念義務を免除した場合は、当該職員が正規の勤務時間に勤務しないこととなっても給与は減額されることなく支給される(本件給与条例二三条の反対解釈)。従って、適法に職務専念義務が免除された派遣職員は、勝山市から給与全額を支給され得るし、勝山市はこれを支給する義務がある。

原告は派遣行為自体は適法であっても派遣職員が常勤の職員として「公務」に従事していない以上これに対する給与の支給は違法であると主張するが、職務専念義務を免除されても派遣職員は勝山市職員としての身分を有し、本件免除規則二条一号所定の団体の事務に従事すること或いは定められた研修先で研修するという免除の条件に従っているのであるから、派遣職員に給与を支給することは何ら違法ではない。

(二) 三セク会社の場合

(1) 法恩寺山のリゾート開発は、総合保養地域整備法に基づく福井県の「奥越高原リゾート構想」の一環として行われているものである。この福井県の基本構想は総合保養地域整備法五条による主務大臣の承認を得たものである。勝山市も、関係する地方公共団体として、関係事業者とも相互に連携を図りながら承認基本構想の円滑な実施が促進されるよう協力しなければならず(同法五条三項)、承認基本構想に基づき民間事業者の能力を活用しつつ地域整備を促進するため必要があると認めるときは当該民間事業者に対して、出資、補助その他の助成をすることができ(同法一三条一項)、特に、同構想に基づき特定民間施設の設置及び運営を行う者に対しては、必要な助言・指導・援助を行うよう努めなければならない。(同法一二条)。

そこで、勝山市は総合保養地域整備法に従い、「奥越高原リゾート構想」の実現のため、三セク会社という第三セクターの出資者となり、同法二条・五条二項四号の特定民間施設であるスキー場或いはゴルフ場を三セク会社が設置運営することからしても、勝山市は同社を助言・指導・援助しなければならない立場にあった(総合保養地域整備法一二条)。

そして、総合保養地域整備法一二条にいう「助言・指導・援助」は、同法一三条一項にいう「補助その他助成」よりも積極的な意味を有し、同法一三条が専ら経済的な支援を規定していることと比較すれば、同法一二条は人的指導・支援を認めていることは明らかであるので、三セク会社に対する職員派遣は職務命令によっても行ない得るものである。

なお、原告は、三セク会社への職員を派遣したことが同社に利便を供与したことになり違法だと主張するが、総合保養地域整備法に則った利便供与を違法と言われる筋合はない。

(2) そこで、右指導育成の目的は、ゆとりある住民生活のための利便の増進並びに勝山市の振興を図りつつも、それが決して営利追求のみに片寄らないように、住民の福祉の向上並びに勝山市及び勝山市経済の均衡ある発展を目指すことにあり(総合保養地域整備法一条)、勝山市の指導育成が最も必要とされたのが、開発の段階であったのである。

即ち、営利を追求する余り自然環境を無秩序に破壊することのないよう住民の福祉の向上を第一義とした秩序ある開発こそが求められていたのであり、そのためには市職員を三セク会社に派遣し会社内部においてチェックしていくことが最も効果的であった。

例えば、保安林解除の問題一つとってみても、市職員を派遣した意義は十分にあった。保安林解除の基準が平成二年六月に従前より厳しく改正されることが判ったとき、その時点では旧基準による解除も可能であり、東急不動産株式会社から出向していた職員らはこれによりたいと考えていたが、派遣職員は、勝山市と連携の上親基準に則って開発を行うよう主張し、結果的に会社内部の意見を修正させた。

原告は、三セク会社に職員を派遣せずとも外部からでも十分に規制できたと主張するが、会社内部に入り込み同社の業務内容を十分に知っている者がおり、この者を市が全面的にバックアップしたからこそ、過大な施設の抑制や自然環境に影響のありすぎるスキーコースの変更等を説得できたのであり、もし外部から「お役所風」をふかして頭越しに新基準による保安林解除を押し付けていたなら、三セク会社の反発は強かったであろうし、これ程効率的に開発は進まなかったであろうと思われる。

そして、勝山市は、ほぼ開発行為が終わり平成五年十二月にスキー場がオープンした段階で、三セク会社への職員派遣を打ち切った。

勿論、原告主張のように、今後の運営の監督も重要なのだが、これまでに基本のレールを敷くことができたので、これからの総合保養地域整備法一二条の指導援助等は外部から行うことで良いと判断したのである。

(3) 勝山市が三セク会社に職員を派遣したのは、まず株式会社が存在してこれを援助するために職員を派遣したのではなく、最初に勝山市が地域振興事業を開発遂行しなければならない公共的必要を有し、これを行なう最良の方法として、民間のノウハウ及び資金の活用と事業の進め方における公共性の堅持を結合させたいわゆる第三セクターを設立して使用したのである。これが三セク会社である。

従って、当該派遣職員は、派遣先会社で仕事をする間も、自然環境の保全と調和及び住民福祉の立場から計画のチェック修正の業務を行ない、業務遂行は常に上司である勝山市地域開発室長等の指示を受け、あるいは報告書を提出してこれを行なっていた。前述した、会社内部の意見を修正させた例等は、このような第三セクター方法が本来目的としていたところのものが発現したといえよう。原告が観念的な議論で、職員の派遣は私企業の利益のためにするに過ぎないからおよそ許されないと主張するのは、地方自治行政ないし住民自治から事務遂行のための有用な選択肢を根こそぎ奪ってしまうことになる。

もちろん、地方自治制度において、地方公務員の職務専念義務は極めて重要である。従って、公共事務遂行のために第三セクター方法を採ろうとするときも、その必要性や派遣に伴う問題点を慎重に検討した上で選択しなければならない。その関係では、単に市長の「職務命令」で派遣を命じ、それが結果的に地方公務員の職務専念義務を免除した状況をもたらすという派遣の方法と、「職務専念義務免除」をいかなる場合は是認すべきかを自覚的に、住民自治の一つの具現者である議会が討議し、その場合ないし要件を摘出してこれを住民自治の総意として制定する条例(職務専念義務免除条例)に明らかにし、この条例に則って職務専念義務の免除を行なう手続を踏んだ上で職員を派遣する方法とでは、大きな差異があると考えられる。後者にあっては裁量判断が恣意に流れないようにする実質的かつ手続的保障が措られているからである。地方公務員法三五条が、職務専念義務は条例に定めがある場合はこれを免除し得ることを、特に、かつ、積極的に明記したのは、この理由による。

本件の場合、勝山市長は、右免除条例に従い、同条例が認めている範囲で適切にその裁量権を行使したものであって、三セク会社の設立と運営がそもそも前記のとおり公共的必要に基づくものであってみれば、これを右条例下で職務専念義務免除が認められる「市行政と密接な関係を有し、市が指導育成することを必要とする団体」と認めた市長の裁量判断は妥当で、権限の範囲を超えていない。

(三) 相互不動産の場合

(1) 今日、情報化の進展・国際化の進行やこれに伴う住民ニーズの多様化等により、地方公共団体にはより質の高いサービスが求められ、その担い手となる職員の意識の変革や資質の向上が求められる。そして、職員の意識の変革を促進していくために研修制度は不可欠である。

職員の研修について定めた地方公務員法第三九条二項の規定も、このような状況を踏まえて、任命権者自らが主催して行うだけでなく、他の機関に委託して行う場合を含むと解釈されている。なぜなら、任命権者が主催して行う研修には法的にも事実上も限界があるからである。従って、研修の必要性があって研修の実を挙げるためであれば地方公務員法三九条二項を根拠に職務命令として民間企業への職員の派遣も許される。

(2) 勝山市は元々繊維産業と農業を主な地場産業としていたが、この二つの基幹産業は衰微の一途をたどっていた。又、勝山市には平泉寺白山神社・雁が原スキー場といった観光資源があり、昭和五三年を底に徐々に観光客入込数は増えつつあったが、同市の観光施設として決定的に不足していたのは宿泊施設であった。

その中で、相互不動産が設立され、同社は、勝山市内に大仏や二つのホテルとプールを建設し、越前勝山城を完成させた。一方、昭和六二年に国の第四次全国総合開発計画が示され平成二年五月に福井県の「奥越高原リゾート構想」が総合保養地域整備法の基本構想としての承認を受けた。

このような状況で、勝山市は観光産業の活性化とリゾート事業の推進によりまとまりのある都市を構築し、生活環境を整備するとともに豊かな人間性と文化性に富んだ人を育てあげて住民の福祉に貢献することを市行政の究極の目的としたのである。

(3) そこで、勝山市は、地場の観光事業者に職員を派遣し、勝山市を観光都市として脱皮させるための施策を立てるために必要な実務を研修するとともに、併せて民間企業のコスト主義を学ばせることとしたのである。

研修先には、新しい観光の目的である越前大仏・勝山城や宿泊施設を有する市内第一の観光事業者である相互不動産が選ばれた。

派遣職員には当時市の商工観光課の課長補佐が選ばれ、同人に相互不動産の実務に携わらせるのが最適の研修方法だと考えられた。その内容は各種団体等の訪問による広報宣伝活動、協力依頼や資料収集、調査分析、事業策定等の業務に携わることや方法論の研修等である。そして、相互不動産は、営業課長を実質的な講師に当てた。

又、派遣時期については、当初、受入先の相互不動産の都合もあって平成二年一一月一日から翌年三月三一日までとされたが、この期間は所謂シーズンオフで営業に主体の置かれる期間である。しかし、真に観光事業を体験するならシーズンオフの営業がどのように集客に結びついたか、又、どのように客を接遇するかを経験し、更にその経験を次のシーズンオフの営業にどうのように反映させるかまで研修させる必要があった。

実際、派遣職員自身からも、当初の派遣期間では不十分であり期間延長の申し出もあって、最終的に一年余の派遣となったのである。

(4) 研修の成果は次のような所に現われている。例えば些細なことだが、平泉寺のトイレの改修が、職員派遣後僅か四ケ月後の平成三年三月に策定された第三次勝山市総合振興計画に掲げられ実施されたことは、派遣職員の研修の成果であって且つ派遣職員と市当局がいかに緊密に連絡を取り合っていたかの証左である。

又、派遣職員は商工観光課長として市に戻って以降、社団法人勝山観光協会と協力して、勝山市観光計画の策定作業に入った。そこでは、観光を単なるサービス産業ではなく街全体の活性化につながる重要な産業ととらえ、各観光施設の整備は勿論のこと、それらを有機的に連携させる方法や、中心市街地や道路等の整備までに配慮し、且つ、市民全体で観光事業を活性化させる方法が模索されており、派遣職員の研修の成果が随所に現われている。

(5) 以上のように、勝山市は、観光産業の活性化による勝山市の振興を目指し、そのためにまず地場の観光産業に精通した職員を養成する必要があって、職員を相互不動産に派遣したのであり、派遣先、派遣期間、研修内容等、これらの判断は全て市長の適法な裁量権行使に基づくものであって何ら違法な点はない。

第二  争点に対する判断

一  本案前の主張について

1  監査請求前置違反の主張について

本件訴訟は、本件派遣行為の違法を前提として、本件各職員に対する給与の支出を違法行為としているものであるところ、〔証拠略〕によれば、本件監査請求は、要するに本件各職員を各会社に派遣して営利活動に従事させた行為は地方公務員法三五条に規定する職務専念義務に違反するので、派遣した各職員に給与を市費で支給したことは地方自治法二四二条一項の違法不当な公金支出にあたるとして、その是正を求めたものであって、本件訴訟と同一の財務会計行為を監査請求の対象としているから、本件訴訟と本件監査請求の対象は実質上同一であるというべきである。

従って、本件訴訟は監査請求前置の要請を満たし、適法であると認められ、被告らのこの点の主張は採用できない。

2  期間途過の主張について

原告は本件各職員の派遣行為とそれに対する給与の支給とは密接不可分・一体の関係にあると主張するが、ほとんどの行政庁の行為は一定の財政的な行為が不可欠であるから、その全ての場合を一体の行為として住民訴訟の対象となりうるとすれば、地方自治体についてはほとんどの行政庁の行為について住民訴訟が可能ということになり、法が財務会計上の行為に限り、住民訴訟という客観訴訟を創設した趣旨に反するというべきである。本件の市長の各派遣命令は地方公務員法三五条、本件免除条例及び本件免除規則に基づく行為で、給与の支給は地方自治法二〇四条三項及び本件給与条例に基づく行為であって、法的にも別の行為であり、実体的にも、本件各派遣に関する協定書(〔証拠略〕)によって勝山市が派遣職員の給与を負担することを取り決めたとしても、給与の支給は、支給日ごとに、所定の期間の当該職員の勤務に対してなされるべきものであるから(本件給与条例三条、七条)、給与の支給行為は各支給日ごとになされる個々の行為であって、これらを一体の行為とみることはできない。地方自治法二四二条一項によれば、住民監査請求の対象は「違法若しくは不当な公金支出」等の「行為」であるいわゆる財務会計上の行為であるから、個々の給与支給行為が監査請求の対象となっていたものである。そして同条二項は請求期間を財務会計上の行為を基準として、右「行為」のあった日、又は終わった日から一年以内と定めているものである。

以上によれば原告が本件監査請求したのは平成四年四月一七日であるから、平成三年四月一七日以前に本件各派遣職員に支給された給与相当分について、適法な監査請求を経ていないものといわざるをえない。従って、被告池田に対する請求は却下を免れず、被告今井に対する請求も中出に関して同日以前に支出された給与支給相当分の損害賠償を求める部分は不適法で、却下を免れない。

二  本案の主張について

1  本件各給与支給の違法性について

本件各職員は職務専念義務が免除された上、三セク会社や相互不動産に派遣され、その間勝山市そのものの職務には従事していないのに、本件各給与が支払われたことは争いのない事実であるから、市の職務に従事しない者に給与を支払った点では、原告主張のようにノーワーク・ノーペイの原則等からは問題が生じる余地はある。

しかし、およそ給与は具体的に正規の勤務時間に職務に従事した対価としてのみ支払われるものではなく、法も給与は地方公務員としての責任にも応ずるものであるべきことを要請しており(地方公務員法二四条一項)、職員の側からいうとその身分保障的な側面もあることを法は認めていると考えられる。さらに地方自治法二〇四条一項は常勤の職員に対し給与を支払うべきことを定めるが、同条は同法二〇三条一項で報酬を支払うべきことが求められる非常勤の職員との関係で職員の地位(採用形態)を表現する言葉として常勤という用語を用いているものであって、一定期間職務に従事していないだけで、常勤の職員としての地位を失うものではないと解するべきである。従って、職員について直接具体的な市の職務に従事しなかったことだけで、そのような場合に給与が支払われることを全て違法とするべき根拠はないというべきである。むしろ地方公務員法二四条六項を受けて制定されている給与条例二三条によれば、正規の勤務時間に職員が勤務しないことについて任命権者の承認があった場合を除くほか、給与を減額して支給する旨規定されていることから、正規の勤務時間に勤務しないことにつき任命権者の承認があった場合には給与を支給すべきものとしていると解すべきである。

〔証拠略〕及び本件免除条例二条によれば、本件各職員については任命権者である当時の市長の承認の下に職務専念義務が免除されているものであると認められるから、本件各職員が各派遣期間中、正規の勤務時間に勝山市そのものの職務に勤務しないことにつき任命権者の承認があった場合に該当するというべきである。

もっとも、本件では正規の勤務時間に勤務しない職員に対し給与を支払う場合であるので、給与支給者としては、予算執行の適正確保の見地から、任命権者の承認が適法になされたものであるかを検討する義務があるというべきである。しかも本件では給与支給者と任命権者は勝山市長であって権限主体が同一であるので、勝山市長には右承認が不適法である場合には、直ちにこれを是正する権限を有していると認められるので、右承認が不適法である場合に、これを看過して給与を支払うことは、給与支給者としての義務に反するもので、違法な公金支出にあたるというべきである。

本件においては、各派遣のために職務専念義務を免除することが任命権者の承認に該当するから、結局本件各派遣のための職務専念義務の免除が違法であれば、右承認も違法であるというべきで、そのような場合に給与を支払うことも違法であることになる。

2  三セク会社への職員の派遣の違法性について

(一) 原告は、三セク会社への職務専念義務免除の方法による派遣について、派遣される職員が従事する業務が実質的に公務と同視できなければならないとし、三セク会社の業務は何ら公益性を有しないので、本件免除規則二条一号に該当しないと主張する。

しかし、およそ実質的に公務と同視し得る業務に従事させるために職員を派遣する場合であれば、職務専念義務との抵触が起こらず、その免除の必要性はないことになる。本号が職務専念義務が免除される場合として定められている以上、公務とは同視し得ない業務であるが、市行政との関連性から育成指導が必要と認められるような高度な公益性が認められる業務に従事させる場合であれば、本号に該当するというべである。

〔証拠略〕によれば、三セク会社の業務について、以下の事実が認められる。

勝山市は元々繊維産業と農業を主な地場産業としていたが、近年この二つの基幹産業は衰微の一途をたどっていた。そこで同市は観光、リクリエーション開発に力点を置き、雁が原スキー場等の観光資源を開発していたが、昭和五四年に越前大仏建立とそれに伴う観光事業を実質上の目的とした相互不動産が設立されるに及んで、昭和五七年に既存の観光資源に加えて右大仏や法恩寺山周辺の整備による通年型・家族志向の滞在型観光・リクリエーション基地化を図ることとした。さらに、昭和六二年に勝山市周辺の自然環境に恵まれた地域において、余過活動空間、地域空間を整備し地域資源を生かした発展を図るとする国の第四次全国総合開発計画が示され、平成二年五月に法恩寺山リゾート開発を核とした福井県の「奥越高原リゾート構想」が総合保養地域整備法の基本構想としての承認を受けるに及び、勝山市は平成三年三月にはまちづくりの基本構想として、観光・リゾート事業等第三次産業部門を育成して観光資源とリゾート地との連携を図った特色ある観光都市を目指すこととした。このように勝山市及び福井県がリゾート事業を積極的に推進する施策を策定していく中で、法恩寺山周辺のリゾート開発もその一つとして位置づけられてきたが、その事業主体としていわゆる第三セクター方式の企業を設立することを、昭和六三年七月に民間事業者、支援団体、福井県、勝山市が合意し、それらが共同して三セク会社を設立することとなった。

以上によれば、三セク会社は法形式的には株式会社という営利法人であるが、勝山市を含めた国、自治体の地域振興対策等の事業としてのリゾート開発事業を目的とするものであると認められる。

確かにリゾート開発には不可避的にいわゆる環境破壊を伴うものであり、住民の中にも本件リゾート開発に対し危惧、反対の念を表明するものもいたことも認められる(〔証拠略〕)が、地域振興対策やまちづくりのあり方は、行政の裁量に委ねられているものと考えられるので、環境破壊を伴う事業であるからといって、直ちに公益性を否定することはできない。

また、事業主体である三セク会社は、法的には勝山市は出資比率一割の株主に過ぎず、基本的には営利を目的として経営されていくべき株式会社であることから、本来行政が行うべき事業であっても、営利事業として行われる以上、三セク会社の業務を市の業務と同視することができないのは原告主張の通りである。

しかし、今日、地方自治体であっても、地域活性化等の一定の行政目的のために物品の販売やリゾート施設の運営などの、民間企業が営利事業として行っている事業を行っていることは顕著な事実であることからすれば、営利事業であるというだけで、公益性を否定することができないことはいうまでもない。地方行政にとって、多様化する行政需要に対応する手段として、民間の資金とノウハウの導入が有効かつ不可欠であることも否めず、本件のような法恩寺山周辺のリゾート開発を関係行政機関のみで達成するには膨大な予算と職員の採用が必要であるから、そのような事業はいわゆる第三セクター方式による方が効率的に遂行できることは明らかである。このように、いわば一定の行政目的の実現の手段として株式会社という法形式が利用されたような場合には、営利事業であっても高度な公益性を有することがあるというべきである。

以上によれば、三セク会社も、当初から勝山市等の施策実現の手段として設立されたいわゆる第三セクター方式の会社である点からは、勝山市の行政と密接な関係を有する公益性の高い団体として、本件免除規則二条一号の団体に該当するものというべきで、事実上その事業が市の施策の一環である以上、市が積極的に育成して行くべき団体であるといわねばならない。

さらに、市がリゾート開発という施策を採った以上、過度の環境破壊を防ぐべき義務があり、株式会社の形態であっても、その事業の公益性からは、後に承認を受けた総合保養地域整備法一三条一項に照らしても、市は利潤追求のみに陥らないように、三セク会社の過度の営利活動を抑制するべき義務がある。従って三セク会社に対しては住民の福祉の観点からの市の積極的な指導監督等の関与が不可欠である。

以上によれば、三セク会社は本件免除規則二条一号の市行政と密接に関連し、市が指導育成することを必要とする団体に該当するものというべきである。

(二) 原告は、被告らが三セク会社に対して職員を派遣したのは、同社に対する単なる便宜供与に過ぎず、同社に対する指導監督のためには職員の派遣は必要はなく、妥当でもないと主張する。しかし、三セク会社へ派遣された市職員の実際の業務内容等について、前記証拠によれば以下の事実が認められる。

境井、鳥山は三セク会社の開発企画プロジェクトチームに所属していたが、その直接の上司は三セク会社の常勤の役員であって、東急不動産株式会社から派遣された開発企画部長であり、さらに代表取締役社長がいる(東急不動産株式会社の関西支社長の兼務)。本件派遣当時には開発企画プロジェクトチームには東急不動産株式会社派遣職員二名、勝山市派遣職員二名、会社採用職員二名がおり、勝山市派遣職員の中では境井が主として業務を担当しており、鳥山は境井の補助事務を取り扱うという関係であった。そして、三セク会社における勝山市派遣職員の業務としては、各種許認可申請事務や官公庁、各種団体との協議・交渉の他、開発計画の調査、企画立案等であった。境井は市職員として採用されてから本件派遣までの間のほとんどの間(約一〇年間)公害、防災関係の仕事を担当していたもので、昭和六三年五月に商工観光課に配属換えとなり、三セク会社の設立準備に携わった上、同年一一月に三セク会社に派遣された。境井は派遣の際、所属の課長から自然環境の保全と調査、住民の福祉を守る立場から仕事をするように言われ、市長からも市と緊密に連絡を取るよう指示されたので、スキー場の開発の際に、開発に伴う保安林解除申請のために、当時の解除の条件より厳しい新基準を先取りすべく、自然保護や景観保護の観点から、スキーコースの幅や間を変更し、高い残地森林率を確保したり、景観保護の観点から建物の高さを低くしたり、景観に調和する外観にしたり、施設エリアの分譲に右のような建物にするような建築協定を策定するなどの計画を立て、法的に義務づけられていない環境アセスメントを実施したり、ゴルフ場の開発の際には地元住民との交渉において農薬使用について厳しく制約する内容の協定を締結するなど、市の上司等と連絡を取って、経営効率の立場から反対する三セク会社の上司等を説得するなどして実現したが、その際、境井にとっては、勝山市から給与が支給されていることも市職員としての立場を主張できる重要な要素となった。その後、三セク会社にとって最大の開発事業であるスキー場の開発がほぼ終了し、平成五年一二月スキー場が開業に至って、境井、鳥山の派遣はいずれも打ち切られた。

以上の事実によれば、境井、鳥山の業務は各種許認可申請事務や各種団体との協議・交渉等、三セク会社のリゾート開発事業の推進に資する面があることは認められるが、右各職員は、その業務の中で、市の上司及び市長の指示を受けて、環境保護や住民の福祉の観点から三セク会社内部の意見を修正させていることからすれば、各職員の派遣は単なる三セク会社に対する便宜供与というべきものでなかったことは明らかである。

もっとも、前記事実や〔証拠略〕によれば、三セク会社への職員の派遣は当初から三年の期間を予定されたもので、実際の派遣期間は境井については約五年半、鳥山については約四年にわたるものであることが認められる。この点、地方公務員法三五条を受けた本件免除条例や規則も、職員の申し出に基づくものを前提としていることからしても、証拠(原告本人)によっても、本件免除条例制定の当初は、職務専念義務の免除の制度は長期にわたる他団体への派遣のための処遇としての制度を予定していないと考えるべきであることからすれば、本件は職務専念義務の免除による派遣としては長期に過ぎる感は否めない。

しかし、地方公務員法三五条は地方公務員制度の根本原則ともいうべき重要な義務であることを前提に職務専念義務の免除の要件を条例に委ね、条例はさらに任命権者の裁量を明確化した規則に委ねていることからすれば、法や条例の趣旨に反するような逸脱がない限り、右規則の運用についても任命権者の裁量が認められていると解すべきである。

三セク会社の業務は勝山市の行政と密接に関連し、市の育成、指導監督が必要な団体であることは認められるが、そのための手段として職務専念義務免除の方法による職員の派遣が必要かつ相当であり、任命権者の裁量の範囲として妥当であるかを検討しなければならない。

既に認定した事実によれば、三セク会社の出資構成からすれば東急不動産が過半数を占めており、勝山市や福井県は株主もしくは経営者的立場からの指導監督は十分にはなし得ないことは明らかである。そして、保安林の解除等につき一定の権限を有する福井県と異なり、勝山市にはそのような権限がなく、法的に指導監督するには不十分であった。

そこで、勝山市はその職員を派遣し、三セク会社内での業務に従事させることによって、三セク会社の開発方針等の事業内容について迅速かつ詳細に情報を入手することができ、環境保護や住民の福祉の観点から、市の上司及び市長の指示を受けた右各職員に社内で議論させて三セク会社内部の意見を修正させるという形で、迅速かつ効果的に指導監督することを企画し、実際にその成果を上げることができたというべきである。このような、迅速な指導監督が必要であるのは、本件のようなリゾート開発事業においては、環境破壊と表裏一体となる開発段階であることも認められるので、右段階の三セク会社の事業について、職員を派遣することによって指導監督することは必要かつ妥当であったと認められる。

さらに、職員の派遣の方法としては、三セク会社は株式会社であって営利事業としてリゾート開発事業を行うものである以上、公務とは相容れない部分があるため、職務専念義務との抵触が生じるといわざるを得ない。

一方、三セク会社の企業内部において、指導監督の立場をも維持させるためには給与も含めた派遣職員の完全な身分保障が必要である。そもそも、職務専念義務の免除による方法は、職務命令による方法に比すると法的に職務専念義務との抵触を生じず、退職や休職による方法に比すると身分保障等にも欠けるところは少ないものとして採用されていることは、顕著な事実として認められる。

以上の諸事情を考慮すると、境井、鳥山の三セク会社への本件各派遣は、職務専念義務の免除の方法によることが必要かつ相当であったと認められるので、三セク会社への派遣の違法性を前提とする点での原告の主張は理由がない。

以上によれば、原告の請求中、三セク会社への派遣職員に給与として支出した金員につき損害賠償を求める請求は理由がない。

3  相互不動産への派遣の違法性について

〔証拠略〕によれば中出の相互不動産への派遣の経緯及びその業務内容について、以下の事実が認められる。

相互不動産は昭和五四年に設立され、同六二年に越前大仏という巨大な観光資源を完成させ、同年から同大仏への観光事業を開始し、ホテル二軒を経営するようになった。先に認定したような経緯で勝山市は観光都市を目指すこととなったが、同市は昭和六〇年三月の計画(〔証拠略〕)において大仏周辺を観光の核心的存在と位置づけその周辺の環境整備を計画するなど、同社の観光資源に大きく期待を寄せていた。しかし、越前大仏は開業当初から高い拝観料と駐車料金のため、苦情が続出し、報道でも取り上げられ、平成二年頃までその観光入込客は減少の一途を辿っており(なお、平成三年から増加に転じている。)、平成三年度以降の勝山市の計画(〔証拠略〕)の中では大仏周辺のイメージアップが計画されている。そのような状況下の平成二年一一月に当時の商工観光課課長補佐の中出が研修名目で相互不動産に派遣されることとなった。中出は昭和三〇年に採用され、農務課、産業経済課等を経て、昭和六二、三年頃に商工観光課課長補佐となったものである。派遣後、中出は営業部に配属され、営業課長の指揮の下に、同人若しくは同課社員(合計四名)の営業活動に同道し、あるいは単独で官公庁を訪問し、相互不動産の観光施設等の広報活動を行ったり、同社に対する苦情、要望等の同社の観光事業についての情報を収集するなどの業務に従事していた。その際、対外的には中出は勝山市商工観光課課長補佐との肩書を表示した名刺を使用していた。派遣期間中、中出は市に対し毎月勤務日数や出張先、業務内容を記載した簡易な報告書を提出していたが、それ以外に派遣結果の報告書等は作成されておらず、派遣当初から終了に至るまで、特に研修プログラムというようなものも組まれていない。

(二) 以上の事実によれば、中出は、一年五か月もの間、派遣先の相互不動産の営業活動そのものに従事し、相互不動産の営業活動の中で、対外的に勝山市商工観光課課長補佐との肩書きを使用してきており、右業務自体には市の事業との関連性はないものと認められる。確かに、前記証拠によれば、勝山市において、職員の資質向上のための民間企業の効率性、採算性の研修の必要性があり、その点が議会でも取り上げられるに至っていることは認められ、一般論としては実務に就くことも研修方法として有効であることも認められるが、本件派遣は観光開発事業の技術的研修を目的とするものとされており、約一年半にわたるものであるから、その技術を広く職員が享有し市政に生かすべく、体系的な報告を求めるのが普通であるし、逆に単に民間企業の姿勢(効率性、採算性)を体得させるためであれば、自己が関与した業務の成果を見届ける必要はなく、約一年半の期間は研修期間としては長きに失するし、その後、同様の研修が実施されていないのも不自然である。むしろ、本件派遣の目的は、市の管理職クラスの職員を相互不動産の営業活動に従事させ、対外的に同社のイメージアップ等を図るという、同社に対する人的支援にあったのではないかという疑いを拭いきれない。

二  従って、本件派遣は本件免除条例二条一号の研修を受ける場合として職務専念義務が免除されているが、右に認定した中出の派遣の経緯や実際に従事した業務内容、研修方法としての不自然性等に照らせば、本件派遣の目的が真に研修を受けさせるものであったとは認めがたい。結局、中出の相互不動産に対する本件派遣命令は、本件免除条例二条一号に該当しないのに、職務専念義務を免除したものであるので、違法であるというべきである。

4 勝山市の損害と被告今井の責任

前記のように、中出の派遣について、研修目的として職務専念義務を免除したことは違法であるから、被告今井の中出に対する派遣期間中の給与の支給は違法であるというべきであり、既に認定した右派遣の経緯によれば、被告今井は本件派遣が違法であることを知り得たものであるというべきである。

従って、右被告の違法行為により勝山市に生じた損害は、現実に勝山市が負担することとなった平成三年四月一八日から派遣終了時までの給与(諸手当分)相当額の二八三万六七九二円であると認められるので、原告の被告今井に対する請求は右金額の限度で理由がある。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 宮武康 中村昭子)

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